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第5話 その新入生代表、本当に幻想的ですか?

last update 公開日: 2026-06-12 16:30:34

――マルトニア学園入学式の日

校門から校舎へと続く道にスリズィエの花びらが舞う。

奥へと更に奥へと進めば、入学式が執り行われている大講堂へと続く。その中には今年入学する新入生とその保護者が集まっていた。

「新入生代表ウェルシェ・グロラッハ」

式が進行していく中で、一人の少女の名前が呼ばれた。

「はい」

凛とした声が講堂の中に響いた。

一斉に全員の視線が声の主に集まる。その先には一人の少女がちょうど席を立ったところだった。そんな大勢の視線を気にも止めず、少女は生徒達の間を壇上へ向け静々と歩いていく。

その姿に生徒も教師も保護者さえも、会場にいる誰もが息を飲んだ。

白銀の髪シルバーブロンドがふわりとなびく。そのきらめきに全員の視線が自然と集まった。

皆と同じ既製品のブレザーが、まるで彼女のためだけにデザインされた特注なのではないかと誰もが錯覚した。

制服の裾から覗く四肢は白く華奢で、歩く姿はあまりにも幻想的。あまりの儚さに一瞬でも目を離せば消えてしまいそうで誰もが視線を外せない。

「……妖精?」

惚けたようにみなが見守る中、誰かの口から思わず漏れ出た言葉。

それはとても小さい声だったが、静まりかえった会場には異様に響いた。だが、この場の誰もが美しい少女に目を奪われて気づかない。

息をするのも忘れる……それほど衝撃を受けていたのだ。

壇上の演台の前に立ったウェルシェがにこりと微笑む。その笑貌の美しさに全ての人の心までもが奪われた。

「スリズィエの花びら舞う陽射し柔らかいこの季節に、私たちはマルトニア王国の貴族子弟の集う伝統と格式あるこの学園の門を無事くぐることができました。本日は私たち新入生のためにこのような素晴らしい式を……」

ウェルシェは淀みなくすらすらと挨拶を述べる。その声も鈴を転がすような澄んだ響きで耳に心地よい。会場中の人間の魂さえも完全に魅了しょうあくした。

「……以上をもちまして入学の挨拶とさせていただきます。新入生代表ウェルシェ・グロラッハ」

挨拶を締め括るとウェルシェは優雅に一礼した。

一連の挙措もあまりに見事、あまりに完璧な美。

幻想的な光景にみなが言葉を失い、会場は静寂に包まれた。

――パチパチ……

その最初の拍手は誰のものだったのだろう。小さなさざ波のような拍手にみなが夢から醒めたようにハッとした。そして、追随するようにまばらに拍手が起き、それはしだいに観客席の全てに伝播して大きな荒波へとなっていく。

――パチパチパチパチ

――パチパチパチパチ

会場の中に割れんばかりの称賛の拍手。

まるで会場の空気が震えているようだ。

その嵐のような拍手の中、ウェルシェは行きと同じく静々と己の席へと生徒達の間を歩く。

「なんて美しいんだ」

「まるで宙を舞うように軽やかな足取り……」

「妖精だ……妖精の姫君だ」

通り過ぎるウェルシェを名残惜しそうに見送る両脇の生徒から自然と湧き上がる賛辞。

(やっぱり、みんなもそう思うよね……ウェルシェが世界で一番可愛いって)

誰もがウェルシェの美貌に驚嘆していたが、新入生の中でそれを当然のように受け止めていた少年がいた。

(あの子が僕のお嫁さんになってくれるんだよなぁ)

そして、とても誇らしくもあった。なぜなら、彼こそウェルシェの婚約者、この国の第二王子、エーリック・マルトニアだからだ。

だからこそ、それと同時に不安も大きくなった。

(あいつ、さっきからウェルシェの胸ばっか見て!……あっ、あいつ足を舐めるような目を向けやがって!)

自分の婚約者が誰彼かまわず魅了しまくっているからだ。

彼の最愛の婚約者に男達の視線が集まっている。その目には明らかな下心があった。

(くっ、ウェルシェにイヤらしい目を向けるんじゃない!)

この先、彼らがウェルシェに対して何を考えているのか、エーリックには手に取るように理解できる。

(この分じゃ、明日からウェルシェにあの男共が群がってくるんだろうなぁ)

エーリックの危惧を証明するかのように、入学式が終わるまで会場の視線は静かに着席するウェルシェに釘付けだった。

この日、新入生総代挨拶でウェルシェは全校生徒、職員に強烈な印象を与えたのである。絶賛お澄ましモード発動中のウェルシェに誰もが欺かれたのだ。

だが、ウェルシェの誤算はここから始まる。類希たぐいまれなる儚げな美貌と家柄に貴族令息達の食指が動いたのだ。

次の日から、ウェルシェの周囲は彼女を物にしようとする貴族令息達で溢れかえることとなる。

かくしてエーリックの不安は見事に的中してしまったのだった。

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